「誰もが幹事になれる!」
- 地域コミュニティの活性化を目的とした「コミュニティウエア」開発の試み

安藤昌也(アライド・ブレインズ)

1. はじめに

近年、高齢化や過疎化、産業の空洞化、環境問題など地域社会が抱える課題は、いっそう顕在化している。これらの問題に対し、特定非営利活動法人(NPO)や地域ボランティアなど、既存の地域社会の内部に、新しい組織形態をつくることで、課題解決に取り組む動きがある。なかでも、WEBやメーリングリストなどIT用語集へを活用することにより、地域活性化や地域の問題解決に役立てている例[1]が増えている。

任意団体「Eジャパン協議会」のe-コミュニティ推進委員会では、このような背景に基づき、地域にもともとある活動に情報技術活用してコミュニティの活性化、再生・復活を図り、住民側から情報化社会にふさわしい生活情報環境の実現に向けた活動を行っている。

本稿は、このEジャパン協議会の意図の基に、地域社会における組織(ここでは「地域コミュニティ」と言う)の活動を支援し、ひいては地域が活性化することを目的としたソフトウエア開発プロジェクトを紹介する。

2. 地域コミュニティ活性化支援の枠組み

2.1 ITによる地域コミュニティ活性化 成功例の調査

ITを活用して地域コミュニティ活動を活性化した主な成功例として、神奈川県藤沢市と岡山県吉備高原都市の取組みが上げられる。

藤沢市では、市役所が電子会議室を設置しており、活発に利用されている[2]。また、電子会議室で議論された内容を運営委員会が取りまとめ、市政に提案できるなど革新的なルールもあり、すでに実施された案件もある。

岡山県吉備高原都市では、CATV用語集へインターネットを利用し、WEBによる電子町内会を構築している[3]。開始から約半年後に実施した利用アンケートでは、約100世帯のうち51%が「ほぼ毎日閲覧」しており、地域の電子コミュニティの成功例として注目すべき事例といえる。また、車椅子のロードレースを実施・支援するなど、地域コミュニティとしての活性化の度合いも高い。

これら成功例に共通するのは、利用者がより簡単に情報を発信する仕組みがあることと、ネットワーク上のコミュニティ活動と実際の社会活動とをうまく連動させている点である。

2.2 地域コミュニティにおける情報流通の現状分析

実際の地域コミュニティにおける情報流通の現状を分析するために、千葉県八千代市の地域組織および岐阜県恵那市の町内会において、実地調査を行った。

地域コミュニティ内では、ほとんどの情報が紙[4]によって情報共有がなされているのが現状である。地域コミュニティにおいて共有される情報を分類したところ、地域コミュニティでは、行事やイベントの情報が大半であることがわかった。この分析から、地域コミュニティにおける情報流通の特徴として、以下の2点が挙げられる。

  1. 行事やイベント(会合も一種の行事)を軸に、行事の告知、参加の募集、実施内容の報告といった情報発信が、時間の経過と共に行われている(図1)。
  2. どのコミュニティ組織の単位をとっても、1つの組織の中に、さらに内部組織や役割が存在する。住民は、これらの内部組織の情報を、広報紙などの紙面構成などによって違いを見分け、理解している。

図1 地域コミュニティにおける情報流通のモデル
告知・募集などの事前情報流通から、イベント当日を経て、事後報告がおこなわれる

2.3 コミュニティ活動の活性化支援の考え方

2.2の分析で明らかになったように、地域コミュニティは会合などを含め、行事を媒介にしてコミュニケーションが成り立っている。この点に着目すると、コミュニティ活性化支援の方策として、以下のような仮説を立てることができる。

この仮説から、システム開発の基本コンセプトを「誰もが行事を企画し、参加を呼びかける"幹事"になれるシステム」とし、行事の幹事役に焦点を当てた機能を検討した。

3. 支援システムの開発

3.1 基本機能の概要

多様な環境からの利用を想定し、システムはWEBサーバ上で稼動するWEBベースツールとした。

行事の呼びかけから行事の実施、実施報告までの一連の流れを、行事に関する情報のまとまりとして捉え、この行事情報に、時間の経過に従って、複数の角度からアクセスできるようにした(図2)。この行事情報は、一人の幹事が管理することを原則とした。また、インターフェースも、バインダー形式にし、行事の流れを把握しやすくするとともに、行事の企画立案が容易である印象を持たせるよう工夫した(図3)。

あわせて基本的なWEBページや掲示板が簡易に作成できる機能も付加した。

図2 システムの機能概要
行事の告知・募集、行事の実務に役立つ機能、イベントに関する意見交換、行事の報告をおこなうイベントバインダーと、ウェブページ簡易作成機能からなる

図3 イベントバインダー機能の画面
作成された画面の例:告知のひとつとして「POP講習会開催のお知らせ」が表示されている

3.2 オープンソースを前提とした開発

本システムは、将来オープンソースとして公開することを前提に開発を行った。また、容易に画面デザインや掲示板の形式を変更できる柔軟性を持たせた。

4. まとめ

本稿では、地域コミュニティを活性化する目的で、行事情報を容易に発信でき、"誰もが幹事になれる"システムの開発を紹介した。今後、このシステムが実際に活用されるかを見極める実証実験を計画している。

なお、本システムはhttp://www.ejf.gr.jp/ecn/にて最新情報を公開しており、今後ソース公開も予定している。

謝辞

本稿は、Eジャパン協議会eコミュニティ推進委員会の委託を受けアライド・ブレインズ社にて実施した成果です。本稿の発表にあたり、快く承諾してくださったEジャパン協議会事務局に深く感謝いたします。

参考文献

[1] 富永: 多摩ニュータウン発 市民ベンチャー NPO「ぽんぽこ」; NHK出版, (2000)
[2] 藤沢市市民電子会議室・運営委員会: 藤沢市市民電子会議室の概要と経緯; 藤沢市, (2001)
[3] 吉備高原イントラネット研究会: 吉備高原都市CATVネットワーク実験(中間とりまとめ); 岡山県 (2001)
[4] M. Koch, A. Rancati, et al.,: Paper User-Interfaces for Local Community Support; Human Computer Interaction International 99, pp417-421 (1999).


ヒューマンインターフェースシンポジウム2002 論文集 651P